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タイトル通りskebを始めてます。
こっちでは全然アピールしてなかったことにようやく気付いたので宣伝しますヽ(^o^)丿ヨケレバイライクダサイ
https://skeb.jp/@soramazinn
ただ例として載せた絵はskeb無関係(skebの絵はR-18ばかりだったので・・・・・・w)

その18(http://soramazinn-2.blog.jp/archives/5667266.html)





 「もーーーーーーっ!!いい加減にする!!いつまでもわがまま言わないの!!」
 「ひゃん!!」

 総二兄のお家のリビング。ちい姉の声が響いて、私はびくっと体を小さくした。
そんな私に、ちい姉は頭をおさえて首を振ってから、しゃがんで私を真っ直ぐに見つめてきた。そのちい姉はやっぱり困った顔してた。

 「これ以上はホントに粘ってもダメよ好香。あたしだけじゃなくて、総二兄たち皆が待たされてるんだからね。分かってるんでしょ?」

ちい姉の言う通りすぎて何にも言えない……でもでも りくつ とかんじょー は別ってマンガでもあるでしょ。短くても夏休み初日からちい姉がいないのだって、ホントなんだしさびしいんだもん……

 「うぅ……でもぉ……」

 うつむいてたら、誰かの手がぽんぽんって頭をなでてきた。

 「そうだよなあ。俺が夏休みにイキナリ愛香を取っちゃうんだもんな……ゴメンな好香」

それは困ったように笑いかける総二兄で。

 「そーだよ総二兄が急に がっしゅく とか出ぱつ しよーとするからぁ……うぇ」

 もともとは総二兄が ぶちょー だってゆーから じかだんぱんに来たんだった。
私にあやまる総二兄を見てたら、つまりちい姉は行っちゃうってことだから、また涙があふれてきそうになる。

 「よしよし。部長の俺がちゃんと説明しなかったのが悪かったよ。帰ったら絶対に埋め合わせはするし、次からはちゃんと好香にも先に教えるからさ。今度だけは!な?俺に愛香を譲ってくれないか?頼むよ」

優しく涙をふいてくれたあと、この通り!と手を合わせて総二兄にお願いされた。
総二兄がこんなにお願いしてくるなんて……ちい姉は大好きだし、ちい姉をおーえんしよーと思ったら総二兄にゆずらないとダメで。

 「ほんとに今度だけ?」
 「ああ」

もしゆずらなかったら、ちい姉だとトゥアールさんにめちゃめちゃリードされちゃうかもだし。

 「帰ってきたらすぐちい姉といっしょにいていーの?」
 「大丈夫だって。ほら部長の総二兄が言ってるんだぜ。安心しろって」

今度だけ。今度だけなら……………総二兄がちゃんと やくそく してくれるんなら。今回、今回だけ……!この夏休み最初だけなら………そ、それなら……うぐ、く、うううぅぅぅ………!

 「うぅ……う、く、むむぅぅぅ……!わかった。ちゃんとちい姉を幸せにしてね総二兄。……わがままいってごめんなさい」

これが、だんちょーのおもいってやつなんだねきっと。
めちゃめちゃさびしいんだけど!がまんして!ちい姉をゆずってあげることにした!!
でも自分で言っちゃったらもっとさびしくなってきた……きっつい。

 「はは、大袈裟な言い方覚えてんなあ好香。了解だ」
 「もー!笑うとこじゃないでしょー!!夏休み最初のちい姉ゆずるんだよ私!!そのちい姉を大事にしてよ!!」

なのに軽い感じで笑う総二兄はなんなの。夏休みのちい姉がどれだけきちょー重かわかってるの!?ほんとにゆずってだいじょうぶなの!?しっかりしてよね!!

 「お、おう。わかったわかった」


 「はいはいはいはいはいははーーい!!!!!!私!私も幸せになる合宿ですから!!幸せになりましょう総二様!!」
 「そうですわそうですわ!わたくしもいますわ観束君!!幸せになる合宿にしましょう!!!」

 トゥアールさんと金髪のツインテール女の子がものすごい勢いで総二兄につめ寄った。あーびっくりした。
2人のいきおいに総二兄も尻もちつきそうになってる。びっくりして、ちい姉のことお願いしたの忘れてないといーんだけどな。
 でも、あのツインテールの女の子って誰……?私よりちょっと年上?6年生くらいに見えるんだけどあの子は合宿行けるの?
気になるけど、すごい気合で総二兄にせまってるし、総二兄は2人のいきおいに押されてるし、質問できる感じじゃないや……むむ、もしかしてあの子もちい姉のライバル!?
 ちい姉に聞いてみたらわかるかな。

 「愛香を取……譲ってくれ……えへ……えへへ……!」

だめだ。ちい姉を見たらぶつぶつ言いながらニヤニヤしてる。ほんのさっきまで怒ってたのにどーしたの……?

 「きもちわるい顔してどーしたのちい姉……?」

やっべ。つい見たまんま言っちゃって、あわてて口を押えたけど遅いかも。ちい姉に怒られてるとこだったのに、よけー怒らせちゃってたらどーしよ。

 「よ~し~か~~~~~……」

こっち向いた怖っ。だからなんで私の言ったことはすぐ気付くのちい姉。

 「ひっ、ごめ――」
 「よくやってくれたわ!いい子なんだから~~!!」
 「はぇ?」

これいじょー怒られるのかと思ったら抱っこされてぐるんぐるん振り回されてる。
ちい姉めちゃくちゃ喜んでるけど私がなにかしたの?

 「そうよね!帰ってきたら思いっきり付き合ってあげるわ……好きなとこ遊びに連れってってあげる!!」

ほんとに!?なんで急にキゲンがよくなったのか分からないんだけど、ちい姉がそー言うんなら、合宿に行っちゃう分甘えていいのかな。

 「そ、それじゃ善沙闇子のライブとかでも……いいの?」

そーっとお願いしてみた。
前から善沙闇子ちゃんのライブ行きたかったんだけど、子供だけじゃ無理だしチケットも買うのもむつかしそーであきらめてたんだけど。

 「ライブ?いいわいいわ連れってってあげるわよそのくらい!!」
 「ほんとにいーの!?やったぁーー!ちい姉ありがとう!!」
 「可愛い妹のお願いだもの……!ちい姉が帰ってくるの楽しみにしてなさい!!」

ごきげんな理由は分かんないけど、ちい姉がこんなにお願い聞いてくれるなんて。ぎゅうって抱きしめてくれるしさいこう~~!!
うん、ちい姉がいない間を私もがんばってがまんしなきゃ。
 ところで、闇子ちゃんのライブって言った時、2人に押されてた総二兄がぎょっとした顔でこっち見たよーな気がしたんだけどなんだろ?


 総二兄に突撃してた2人とちい姉のテンションが落ち着いたから、改めて全員にあやまった。

 「こんな出発直前にウチの妹のせいでバタバタさせてごめん、皆」
 「ごめんなさい……」

いっしょにあやまってくれるちい姉のとなりで、総二兄たちにぺこりと頭を下げた。知らないうちに金髪のツインテールの子の他にもツインテールのメイドさんとかもいた。私がわがまま言ってる間にこんなに待ってる人がいるの全然気づかなかった。
初めての人にめーわくかけちゃった……

 「気になさらず。元気で津辺さんの妹らしい方だと思っただけですわ」
 「うむ。毎日のように学校の壁を壊している津辺やトゥアールに比べれば、子供らしく可愛げあるぞ」

2人とも気にした様子じゃない。これなら一安心かな。

 「えへへ……そうかな」

それにしても、ちい姉の妹らしいのかあ私……照れちゃう。

 「それでは。初めまして、神堂慧理那と申しますわ。貴女のお姉様や観束君、トゥアールさんと同じツインテール部に所属しております陽月学園高等部3年です」
 「私は慧理那お嬢様の護衛で桜川尊と言う。高等部の先生もやっていてな。ツインテール部の顧問だ。よろしくな津辺の妹」

 自己紹介してもらった。
慧理那ちゃ―慧理那さん。ちい姉たちより年上だったんだ。小学6年生くらいに見えたから、慧理那ちゃんが行くなら私も合宿に付いていくのワンチャンあるかなって、またちょっと思ったのに。
桜川先生は……メイドさん?高等部の先生ってみんなそうなの??

 「聞いた通り会長―慧理那さんはあたしよりも年上、学校の先輩よ。またついてくるとか言わないように」
 「桜川先生が慧理那の家のメイドさんってだけだぞ。決して高校の先生の制服がメイド服じゃないからな」

顔に出てたかな。ちい姉と総二兄がジト目と苦笑いで教えてくれた。って、ちい姉ってばその目は何よ。ちょっと思っただけだもんっ。
ちい姉に膨れてたら、慧理那さんにクスッと笑われた。いけないいけない。

 「はじめめまして。津辺愛香の妹、津辺好香。陽月学園初等部3年生です。よろしくお願いします!あの、ちい姉がいつもお世話になってます」

しっかりとおじぎして、私も自己紹介する。これくらいはちゃんとしなきゃ。

 「こちらこそよろしくお願いしますわ好香ちゃん。貴女のお姉様にはわたくしの方がいつも助けられていますわ」

そっと手を握って微笑む慧理那さんはすごい可愛い。喋り方もていねいだしメイドさんまでいて、なんかお姫様みたい。
 ちょっと待って今気が付いたんだけど。目の前にお姫様みたいな人いるのに、私のかっこパジャマじゃん!髪だってバッサバサのままだし!!総二兄にじかだんぱんに来てそのままだったから……

 「きゃっ?」

思わず、ぱっと慧理那さんを振り払ってちい姉の後ろにかくれた。慧理那さんちょっとびっくりしてるけどごめんなさい、きんきゅーじたいだからっ。

 「ちょっとどうしたの好香?」
 「だ、だってこんなかっこじゃ恥ずかしーもん」

理由を言ったら、ちい姉はだまったままで私を前に引っぱり出した。なんで!?

 「……そういうことはパンツ丸出しでそーじの部屋に飛び込む前に言いなさいよね」
 「な、なんでそれ今言うの!ちい姉のばかーーーっ!!」

初めて会った慧理那さんの前でばらすことないじゃん!!だってだって総二兄は総二兄だし別に……!
 慧理那さん目を丸くしてすぐに困ったような笑顔になってて。

 「えーと好香ちゃん……元気いっぱいなのは良いことですけれど、身嗜みは少し気を付けた方がいいと思います」

なんて言われちゃった。
うぅぅ恥ずかしいぃぃぃ。
 ただこの時も、総二兄とかちい姉たちがちょっと変な顔で慧理那さん見てたような。投げたものがそのまま返ってきたみたいな――そうだそうだブーメランってやつ!……なんで?



 その後、私はちい姉に連れられて家に戻った。総二兄のお部屋に窓から入ったから、帰りも総二兄の部屋からちい姉のお部屋に。
私を抱っこして部屋に入るなり、ちい姉は大きくため息をついてほっぺをつついてきた。

 「はぁぁ~~~~……。大暴れしてくれたわねチビスケ」
 「だから、ちい姉がそんな直ぐいなくなると思わなかったんだもん。ほんとは今だってさびしいし」
 「わかったわかった。しょうがないんだから」

ぎゅうっとしがみ付いた私にほっぺくっ付けて笑ってくれたちい姉が好き。


 「ただいま、お姉ちゃん」
 「お帰りなさーい。愛香、好香」

 ちい姉に抱っこされたままリビングに降りると、おねーちゃんがソファで待ってた。

 「うふふ、大変だったみたいね愛香?」
 「大変なんてもんじゃなかったわよ……」

帰ってきた私たちを見るなり面白そうにしてるおねーちゃん。ちい姉は疲れたーってどさっとソファに座り込んだ。

 「私も駄々こねる好香を見たかったなあ」
 「だったら、一緒に来て手伝ってくれたらよかったじゃない」
 「お出かけ前のトラブル解決する総くんと愛香を邪魔しちゃ悪いかなあって。それに、【大好きな愛香おねーちゃんに拗ねた好香】に私じゃ効果ないもの」
 「そうやって高みの見物するんだから、もうっ。こっちはそーじどころか全員巻き込まれたのっ」

ちい姉は口を尖らせながら、おねーちゃんに私を押し付けるとソファから立ち上がった。あ、もーちょっとちい姉の腕の中にいたかったのに。

 「それじゃあ、行ってくるから。お姉ちゃんは好香が追いかけないようにちゃんと押さえててよ」
 「はいはい。好香だってもう愛香おねーちゃんを送り出してあげるよね」

私を膝の上に乗せておねーちゃんが頭を撫でてくれる。

 「うん……いってらっしゃいちい姉」

ちい姉が合宿に行っちゃうのはがまんするって決めたから。
……決めたけど、やっぱりその時だって思うとさびしい。

 「まーたしょげた顔して。ちゃんと約束は守ってあげるし、そもそも帰ってくるって言ってんでしょうが」

しゃがんで顔合わせてくれたちい姉が言うけど、それはそれだもん。ちい姉はちい姉がいないってじょーきょー の しんこくさ がわかってないんだから。


 「あ、ライブ連れてってほしかったら宿題はちょっとくらいやっておきなさいよ」
 「え」

 別れをおしんでたら、おかしなことをちい姉が言ってきたんだけど。

 「え?さっきのやくそくと宿題ってかんけーないでしょ!?なんで!?」
 「そうしないと宿題放り出して遊ぶチビスケがいるからよ。約束の条件に追加」

ただでさえ出かけちゃうのにそんな じょーけん 後からつけてくるなんて鬼かちい姉。そんなじょーけん にされたら、ちい姉はいないわ闇子ちゃんのライブに行けないわ、って私さんざんなだけじゃん!!

 「あとからそんなの言うのずーるーいぃーー!!」
 「長期休みの度、最終日にお姉ちゃんとちい姉を手伝わせなくなってから言うのね」

ひらひらと手を振って立ち上がるちい姉。
なによなによこんな やくそく ただのふこーへーでしょ!?ちい姉につめよろー と思うのに、おねーちゃんが放してくれない。ちょっと!!

 「うー、ぜったい連れてくのめんどくさくなったんでしょちい姉のウソつきいいい~~~~!!!」
 「はいはい。これくらいうるさい方が好香らしいから、これで気兼ねなく出発できるわ。めんどくさくても、あんたがちゃんとしてれば連れてってあげるってば」
 「私が宿題ちゃんとするかなんて見ててわかるでしょ!?」
 「……あんたそれ『私は夏休みの宿題やる気ゼロです』って言ってるのわかってる?」


 ちい姉ってば「あたしが約束守ることになるか楽しみにしてるわ」って笑いながら部屋から出ていっちゃった。も~~~!!ちい姉のばかあああああああああ!!!

 でも、ちい姉にいきどーってると、すぐに玄関から出ていく音と鍵がかかる音が聞こえた。

 「あ……」

とうとうちい姉出かけちゃった。

 「よしよし今回は、最後は泣かないで愛香に『いってらっしゃい』って見送れるようになったじゃない」

おねーちゃんがまた頭撫でてくれる。けど

 「う、うぅぅ……ちい姉いなくなっちゃったあああぁぁぁぁ~~~~~~~………!!」

もう無理。ちい姉がいないのやだああああああああああ!!!

 「あらあら。頑張ったわね好香。ほらほら、おねーちゃんがついててあげるから」
 「うわ~~ん、おねえちゃ~~~ん‥‥…」

くるっと回って抱きついて泣いた私をおねーちゃんは笑って抱きしめてくれた。あったかい。 


「ふふっ、好香が可愛くて、つい愛香と一緒に食べたくなっておねーちゃん困っちゃう」

 なんか言ってたみたいなのは、よく聞こえなかったんだけど。
これが、私の夏休み げきどー の一日目だった。



 ――ちなみに

 「愛香おねーちゃんと約束あるんでしょう?今日から宿題しちゃえば?」
 「ぐす……ちい姉がいなくなったその日に宿題する気分になんかなれないもん」
 「……こういうところがブレないのも、お姉ちゃん困っちゃうなぁ」

それはそれとして恋香が頭を抱えていたり。



 「ずいぶん遅かったわね。待ちくたびれたわよ!!」
 「やっとの思いで子供を説き伏せた後に何でついてくる気満々ないい歳の大人がいるんだよおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

地下基地に待ち構えていた母に総二が膝をついて絶叫していたりするのも好香の与り知らない夏休み一日目の風景だったりした。

その17(http://soramazinn-2.blog.jp/archives/5165824.html)





 「うわあああんん!!ちい姉がイキナリぶったぁぁぁ~~~~!!私なんにもしてないのにぃ~~~ひどぉいいぃぃぃ~~~~~!!!!!」
 「うるさい!あんたよくそんなこと言えるわね!!」

 姉のゲンコツにわんわん泣く妹と説教する姉。それと部屋をぶち抜いた先の壁に突き刺さっている白衣の美少女。

 「あぁ~……なんなんだよ、もう。ん?今のインターホンは、慧理那たちも来ちまったか……」



 俺――観束総二の今の心境を一言で表すならば。
 困った。
これに尽きる。
 俺の部屋への乱入に次ぐ乱入の大騒ぎから数分。場所をリビングに移し、登場人物は俺を含め六名となっていた。
まずは俺。
そして壁に突き刺さったリカバリーを終えてピンピンしているトゥアール。
更に、慧理那と彼女のメイドで護衛兼ツインテール部顧問の桜川先生。
もともと合宿の出発時間が迫っていたので、こっちの騒動が収まるよりも二人が来るのが早かった。
で、この四名の視線の先にいるのが残る二名。

 「あんたはもう……朝から何回、ため息つかなきゃいけないのよ」
 「だってだって……ぐす」

仁王立ちで騒動の発端を見下ろす愛香ちい姉と、その怒るちい姉を涙目で見上げている騒動の発端好香。 騒動の中心たる姉妹である。

 「あたしは学校の部活で合宿なの!あんたがついてこれるわけないでしょ!!」
 「そ、それでもっ、な、夏休みにちい姉がいないとかやだぁぁぁ~~~~~~~~~~~!!!」
 「あぁぁ~~~もぉぉぉぉぉ~~~~~~!!」

 リビングに移ってから、愛香と好香の間で同じようなやり取りが繰り返されている。
好香は泣いているが、愛香も聞き分けてくれない好香に頭を抱えている。泣く子と何とやらには勝てないと言うが、泣いてる好香には愛香でも押し切れないものがあるんだよな。
聞き分けてくれない妹にお手上げになった愛香の叫び声が上がる。

 そう。俺たちツインテール部――つまり、ツインテイルズは夏休みに強化合宿を行うことにしたのだ。
それが出発直前に“愛香を行かせまいとする好香”なんて思わぬトラブルに見舞われるとは。

 「ついてっちゃダメならちい姉が行かないでよぉぉ~~~~~!!!」
 「できるわけないでしょ……どうしたら諦めてくれるのよ」

 さっき愛香に小突かれた(というのレベルの音では無かったが小突いたということであってほしい)痛みで泣いたのが引き金だったんだろうな。“ちい姉と一緒にいたい”と不満を吐き出す好香は、愛香にしがみついて離れそうにない。
いよいよ腰にしがみついてまで泣く妹をどうすることもできず、愛香も疲れた様子で声が小さくなってきた。
 「うーむ。津辺のやつ、これほど妹に執心されているのか」

 桜川先生は、全力で泣き落としにかかっている好香をいっそ感心した様子で眺めている。

 「感心してないで知恵を貸してくださいよ。仮にも教師だしこういう場合の子供に上手いこと言いくるめられる案とかありませんか?」
 「無茶を言うな。私の本業はお嬢様の護衛だし、教師と言っても担当はお前たち高校生だからな。これが津辺と双子の弟くらいなら婚姻届を渡して執心の対象を私に変えられるんだが、あんな女児ではな……むしろあの粘り方は参考になるというか。うむ、どうだろう観束。お前が婚姻届にサインをしなければ津辺の妹を止めないと強気に懇願してみるというのは?」
 「どうだろう、じゃない!この流れで当然のように婚姻届を渡そうとしないでください!!」

縋れるなら藁でもいい現状なので、教師というだけで我ながら無茶振りをしたと思った。が、3倍返しくらいの無茶振りに襲われた。
このメイドさん婚期を逃すまいと婚姻届を常載している人なのは慣れたけど、日進月歩で婚姻届を押し売りするスキルに磨きがかかっている。子供の駄々からも技を見出さないでいただきたい。それ世間一般では、懇願でなく脅迫って言いませんかね。

 ともかく、ずっと好香を知っている俺だって、ここまでとはちょっと予想外だったというか。
これまで愛香が学校行事なんかで外泊になる時は当然、俺も同様のスケジュールだ。その間の好香の様子は、後日に恋香さんの録画を見せてもらったりしてたんだが、その映像よりも大人しくなるどころかパワーアップしている気がする。
……いや、思い返せば恋香さんのアルバム映像でも成長する程にパワーアップしてた気がするな。
両親が海外出張になった時はすんなり見送ってたのに、相手が愛香だとこうも嫌がるのか。

 「正直、慧理那が外泊許可もらうのが一番の問題だと思ってたからな。こんなことになるとは……」
 「わたくしも我が家が合宿の問題だとばかり思っていましたわ。ですが、どうしましょう……好香ちゃんの様子だと、初対面のわたくしは勿論、観束君が諭しても聞き入れてくれるでしょうか?」
 「そうなんだよなあ……」

 俺と慧理那は困り顔を見合わせた。
慧理那は家の格式が高い、いわゆるお嬢様だ。なので部活の合宿とはいえ外泊許可が下りるのかという不安があり、そこが事前の最難関だと思っていた。
結果としては、思っていたよりもすんなり許可が下り何の憂いもなくなったのだが。

 「好香だってそのうち修学旅行とか行ったりするんだからね?」
 「しゅーがくりょこーは夏休みにはないもん」

憂いは無くなったと思ったんだけどなあ。落とし穴は何処にあるか分からないものだ。
慧理那の言う通り、好香特効の愛香でさえ説得に苦戦している現状を見れば俺たちに何ができるのか。
 この合宿がただの部活なら、最終手段としては好香も連れていってやる、というのも出来なくはなかった(それもギリギリだと思うが)。しかし、俺たちの部活はツインテイルズ活動の方便であり、今回はヒーローとしての強化合宿。
加えて――合宿場所はなんと異世界なのだ。
とてもじゃないが好香を同伴させるのは無理だ。何としてでも諦めてもらうしかない。

 「いっつも生意気なくせにこういう時だけ変に素直なんだからぁ……もうちょっと意地張って『ちい姉がいなくても何ともないよー』とかないの?」
 「……ちい姉が夏休みにいない方がやだ」
 「これなんだからぁぁ~……」

……諦めてもらうしかないんだけどなあ。
愛香はしゃがんで好香を抱きしめながらお手上げとばかりに天を仰いだ。そして、ちらりとこちらを振り向くと、援護射撃をしろとアイコンタクトを取ってくる。
すまん愛香。援護したいのはやまやまだが、今の好香にどう言えば効果的なのかがまじで分からん。

 「はいはいはい!幼女に別れを惜しまれ泣きつかれるなんて良シチュは恐怖で泣き叫ばせる蛮族には似合わないと思います!!」

 愛香の援護要請にここぞとばかりトゥアールが名乗りを上げ、豪快に背中から撃ち抜いてきた。
ちょっと静かだったのは泣きつく好香を邪悪な目で凝視して涎を零し、泣きつかれる愛香をこの世ならざる怪異を見てしまった目で慄く、という忙しない二面相していたからなのだが、ついに抑えが利かなくなったのか。

 「好香に涎をつけるんじゃねええええええええ!!!」
 「天使の好香ちゃんは女神のトゥアールさんが涙をぺろぺろしてあげまおぎゃああああああああああ全身がべろべろになる恐怖うううううう!!」

背中から撃ってもその壁は頑丈すぎた。
人体構造を無視した、にゅるんと形容できる流体じみた動きで好香に絡みつこうとしたトゥアールを、愛香は好香を抱きしめたまま片手で鞭のように振り回す。
風圧と恐怖で歪む美少女だったはずの顔が縦横無尽に軌跡を描いている……



 どーしてこーなったのか。
ちい姉について総二兄にじかだんぱんしに行ったら、追いかけてきたちい姉にぶたれて。そしたらなんかもーちい姉に行ってほしくないってことしか考えられなくなっちゃって、ちい姉にくっついてる以外に動けなくなったんだよね。
だってしょーがないでしょ!なんかちい姉怒るし夏休みににいないくらい大したことないみたいに言うんだもん!!なんでちい姉いなくなる上に怒られなきゃいけないの!?ってなったら、どーしよーもなくなったんだもん。

 「ちい姉どーしても行っちゃうの……?」
 「深刻な顔やめなさいよ生き別れってわけでもないでしょうが」
 「ぶああああああああああああああああああ」
 「そうかなぁ……」
 「そうよ!夏休みの合宿だって言ってるでしょうが!!」
 「ぶああああああああああああああああ」

私の頭をぽんぽんと撫でてくれるちい姉は怒った顔からすっかり困った顔になってる。うー、私のわがままなのはわかってるけどそれでも。
 「ぶああああああああああああああああ」

……ちい姉いつまでトゥアールさん振り回してるんだろう。だんだん叫び声が気になってくるんだけど。
 あ、そうだ。

 「トゥアールさんは大かんげーって言ってくれたんだけど……それでもいっしょに行っちゃダメ?」

総二兄のお部屋では、ちい姉が怒ったから言いそびれちゃったんだけど、トゥアールさんOKしてくれたんだよね。どうかな?

 「はぁ?……それ多分そういうことじゃないわね」
 「ちがうの?」

一瞬、びっくりした様子のちい姉だけど、すぐにちがうって言ってきた。心なしかトゥアールさんを振り回す勢いが強くなったからホントみたい。
じゃあトゥアールさんがかんげーしてくれたの何だったのもう。

 「ぶああああああれはああまりの可愛さに目が眩んじゃっただけでごめんなさい好香ちゃんんんんんんんんんんん」

トゥアールさんもぶぉんぶぉん風を切りながらてーせーしてきた。

 「そんなぁ……」
 「ぶああああああああああ合宿先はちょおおおおおおおおおおおっと遠い所になったんでええええええええ好香ちゃんを連れて行ってあげるのは難しいんですよおおおおおおおおおおおお」

ぱん、と手を合わせて期待させてごめんなさいってトゥアールさんがあやまってくる。ちい姉に振り回されてはっきり見えないから多分だけど。

 「ぶああああああああああああああでも愛香さんがお留守番はありだと思いますよおおお総二様はこの私に任せて愛香さんは部室の掃除に励んでくれるなら大歓迎ですよねぶははははあべっしゃあああああ!!!!!!」
 「床の埃もはたくべきよねえ!!」

ちい姉のお留守番をてーあんしてくれたトゥアールさんだったけど、思いっきり振り下ろされて床を人型に凹ませた。
総二兄が「ウチのリビング……」って呟いてるのが聞こえた。ちい姉もーちょっと気をつかった方がいいのかもよ。

 トゥアールさんを手放したちい姉がちらっと総二兄を見て、私に視線を戻した。なんかちょっと顔紅くなってる?

 「これ以上は時間が勿体ないし……く……あんまり言いたくなかったのに」

ぶつぶつ言いだしたちい姉は、両手でぎゅっと私を抱きしめてくれて。

 「好香さぁ。あたしを応援してくれるんじゃなかったの?」

総二兄に聞こえないように、私の耳にそーっとささやいた。

 「あたしだけ合宿に行けなかったら、トゥアールに負けちゃうかもしれないけどそれでもいいの?」

ぼそぼそと言ってくるちい姉。

 「えぇ!?それ言うのずるーいちい姉!!」
 「あんたがいつまでも駄々こねるからでしょ!あたしだって言いたくなかったわよ!」

私の気持ちをりよーしよーだなんてひきょーだぞちい姉!本気でちい姉をおーえんしてるのわかってるくせに!
そー言われたらこまる。ちい姉とはいっしょにいたいけど、コクハクも上手くいってほしい。トゥアールさんはきょーてきだし、ハンデついたらちい姉だとちょっと……

 「うぅ、ちい姉なさけないしぬけがけされたら逆転むつかしいもんね……」
 「……このチビスケ。自分でダシにしたけど、あんたが生意気にそう思ってるのは腹立つわね」

うぐ。抱きしめてくれるちい姉の腕の力がちょっと苦しくなった。自分で言ったクセにちい姉だってわがままじゃん。
ちい姉をおーえんしたら会えなくなる。
ちい姉と夏休みいっしょにいたらおーえんできない。
つらい……きゅーきょくのせんたく……!

 「うううぅ~……ちい姉をおーえんしたいけど夏休みずっとちい姉に会えないのもやだあ」

どっちも選びたくて決断ができない。……ほんとは私のわがままだけどさ。ちい姉のおーえんしたいんだから私がお留守番するしかないんだけどさ。
それでも夏休みにちい姉なしとか無理だもん!!

 「おや?好香ちゃんってば、もしかして勘違いしてるんじゃないですか?」

 ひじょーな二択に身動きが取れなくなってたら、私に合わせてしゃがんでくれるトゥアールさんが、もしかして、とひとさし指をぴっと立てて見せた。
ほんの一瞬前まで、床の凹みにピッタリめり込んでたのに復活はやいなあ。

 「夏休みの合宿、って別に夏休みを全部使うわけじゃありませんよ?」

え。

 「……………そうなの?」

さらっと、すごいじゅーよーなこと言われて頭が真っ白になった。え?え?
トゥアールさんが、やっぱりって感じで私を見てニコニコしてる。……この顔知ってる。私をからかった時のおねーちゃんと同じ顔だ。な、なによぅ!?

 「はぁ!?そんな勘違いしてたわけ!?八月の一週目には帰ってくるわよ」

うそ、思ってたよりずっと短い。
だ、だからって、ちい姉はかわいそうだと思って損した、みたいな顔してるのなによ!?

 「だってだって、ちい姉いつ帰るとか言わなかったもん!!」
 「なーにその膨れっ面は。お姉ちゃんには教えた……あんたが聞きもしないでぐーすか寝てたりそーじの家に飛び込んだりしたんでしょ。このお騒がせチビスケめ」

私のじごーじとくみたいな態度になるちい姉にむすっとしたら、おでこを指でぐりぐりとつつかれた。

 「そもそも夏休み目一杯ツインテールについて部活することなんてあると思うの?」

ないね。たしかにそれはない。
総二兄が「本格的に研究したら夏休みじゃ足りないぞ」とか言ってるけど、それはない。そこはれーせーじゃなかった、うん。
でもちい姉が夏休みにお泊りなんて、最初に言われたられーせーなはんだんができる人なんかいないでしょ。むう。

 「助かったわトゥアール」
 「もう少し可愛い泣き好香ちゃんを見ていたくもあったんですけどねー。流石にかわいそうですし、そろそろ出発時間ですから」
 「悪かったわね妹が手間を……ん?あんたいつから好香の勘違いに気付いてたの?」
 「いやー正直に言ってしまうと二人がループ口論してる途中から、ひょっとして……?と思ってました。でも、泣き好香ちゃんってご褒美とあわよくば愛香さんが合宿キャンセルなんて千載一遇の好機ワンチャンだったんで!結果、自分のヘタレ具合で幼女に訴えかける自虐蛮族が見れたんでまあいいかなって思いましてグフフっふぉあばぁ!!!」

 ひえっ。私そっちのけで話しだしたと思ったら、ちい姉に顎を殴られたトゥアールさんが一回転して倒れちゃった。

 「まったく……何はともあれ、私がいないのはほんのちょっとだけだって好香もわかったんだし、もう大丈夫よね」

 つかれたーって息を吐いて軽く伸びをするちい姉。くるっと回って、私から離れて総二兄のとこへ行こうとしてる。
え、ちょっと待ってよ。一歩進んだちい姉の上着のすそを慌てて掴んだ。

 「ん?どうしたの?」

振り返ったちい姉がふしぎそうに見てくる。どうしたのって。

 「夏休みずっとじゃなかったけど……八月までちい姉がいないのも長いと思う」

うん。思ったよりも短かっただけでじゅーぶん長いよ。ちい姉が帰ってくるまで待ってられるか……自信ない。てゆーかムリ。八月までちい姉いないとかやだ!!

 「え?」
 「え?」

ガックリと肩を落としたちい姉。なんで落ち込むの。
落ち込みたいのはちい姉とどーなるかが瀬戸際の私だよ私。

 「今のは聞き分けの無い妹がようやく納得してくれたって流れだったでしょうがこんのチビスケはあああああああ~~~~~~~~~!!!!!!!」
 「はぇ!?あうあうああうあうあうだってだってだって~~~~~~~~!!」

ちい姉がぱっと目の前から消えたと思ったら、大声出して頬っぺた引っ張ってきた!!いたいいたいいたい!! 流れとか言われたってしょーがないじゃん!私はちい姉がいっしょじゃないとさびしーんだもん!!

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